愛車を駆って
先日、三ヶ月も入院生活をしていた彼女が退院して僕の手元に戻ってきた。
長年生きてきた為、臓器のドナーも少なく今の今に成ってしまった。 固体そのものの衰えは否めないものの、彼女は僕の期待を裏切らない。 この時期、空気が乾燥し彼女の心臓はすこぶる元気! 背中に彼女の鼓動を聴きながら,セカンドからサードにシフトアップし アクセルを踏み込むと、それはまるで女豹が獲物めがけて突進するかの様に 身震いをする。 「血湧き肉踊る」とはまさにこの事。 彼女を駆る僕は、その声を聞き漏らすまいと全神経を研ぎ澄ます。 ワインディングを咆哮とともに駆け抜けると、全身に軽い疲労感と共に 満ち足りた時間がおとずれる。 それはあたかも、愛する女性とともに味わう一時の幸せに似て。 ドライブは秋谷から平作へと入っていた。 ここは大好きな道。 周りの森はまだ、そのの装いを呈してはいないものの気配は秋。 帰りは逆に海岸線を秋谷に向かう。 立石の駐車場は平日にもかかわらず満車に近い状態。 そこから観る海からは、確実に秋の気配を感じる。 その向こうには薄っすらと富士山が見えていた。 喉が渇いていたのでDONには入らず昔からやっている茶店に入る。 昔懐かしいラムネを飲みながら茶店のオヤジさんとしばしお話。 被爆者でもある”その方”の話に耳を傾ける。 薄らいでいく「原爆の恐ろしさ、戦争のむなしさ」に危機感を抱いていた。 茶店の庭には「とべら」と云う、可愛い実をつけた庭木があった。 実が熟すとザクロのように割れ、そこにまた赤い小さい実が顔をのぞかせる。 その一枝を折ってオヤジさんは僕の胸ポケットにさしてくれた。 友好のしるしかな? いや、そうではなく、このオヤジさんの温かい心ねから出てきたものだと思う。 そしてオヤジさんが見せてくれた”それ”は、ここが確実に海の際だという事も。 「とべら」の葉にはキラキラと塩の結晶が付いていた。
by sammy-mola-art
| 2009-10-23 12:02
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